■ 症例概要
今回ご紹介するのは、交通事故をきっかけに寝たきり状態となった猫の症例です。
この猫は近隣の庭に出入りしていた半野良の猫で、ある日、後肢が動かない状態で発見・保護され、当院を受診しました。
受傷当時、意識は清明で反応はあるものの、自力での起立・歩行は不可。排泄・採食も他者の介助が必要な状態でした。
■ 診断と治療選択
交通事故による脊髄損傷の可能性が高く、通常であればMRI検査による詳細な評価が望まれます。
しかし、今回は飼い主の経済的事情によりMRI検査は見送りとし、保存的管理を基本とした対応を選択しました。
そこで、症状や経過、猫の状態を踏まえ、試験的にエクソソーム治療を導入することを提案。
飼い主の同意を得たうえで、エクソソームを1回皮下投与しました。
■ 経過と改善状況
▷ 投与後1週間
歩行能力はないものの、頭部や前肢の動きに力が戻り始め、体位変換時に抵抗が出るように。
自発的な舐め行動や、食事に対する反応も増加し、寝たきりながらも環境への反応性が向上していました。
▷ 投与後2週間
自力での採食が可能になり、呼びかけに対して頭を持ち上げる動作も見られました。
前肢で身体を少し支えるような動きも観察され、全身状態が明らかに改善傾向に。
▷ 2回目の投与(初回から約1ヶ月後)
さらに改善が見られたことから、2回目のエクソソーム投与を実施。
その後、体幹の安定性や前肢の支持力が向上し、排尿・排便の際に体をやや浮かせることができるようになりました。
■ 飼い主の評価と生活の質の変化
飼い主からは「寝たきりでただ横たわっていたあの子が、自分でごはんを食べる姿を見られて本当に嬉しい」と、高い満足の声が寄せられました。
生活の質(QOL)は明らかに改善し、介護の負担も軽減されたとのことです。
■ 考察
本症例は、重度の脊髄損傷とみられる猫に対して、エクソソーム投与が機能的な改善をもたらした可能性を示す一例です。
神経組織への再生・修復を促すとされるエクソソームの機序が、臨床的にもポジティブな反応を示したと考えられます。
もちろん、まだ実績や研究が限られており、すべての症例に有効とは限りませんが、今後の選択肢の一つとして検討に値する治療法といえるでしょう。
※本記事は1症例の臨床経過に基づいた記録であり、すべての動物に同様の効果が得られることを保証するものではありません。